生産者からもらったバトンをつなぐ
コーヒー豆の焙煎を専門に手掛ける「コーヒーロースター」という職業がある。Takさんもその仕事に就く一人だ。愛知県春日井市に「Cielo roasting(シエロ ロースティング)」という焙煎所を構え、全国のお店や個人にコーヒー豆を卸している。
ロースターの仕事はコーヒー豆を仕入れるところから始まる。生産者から豆が輸送される際は麻袋に入っていることが多いが、外気の影響を受けると乾燥したり、フレーバーが劣化してしまう。そのため、焙煎所に届いたらすぐに異物除去機を通し、1ポンドごとに真空パックして気温と湿度を管理した暗所に保管する。シエロでは浅煎りのコーヒーを中心に常時40銘柄ほど、少ないものは5kgから取り扱っており、少量多品種が特徴だ。
「豆の特性をロットごとに楽しんでもらおうと思うと、必然的に銘柄が増えていくんですよね。そのせいか、お客さんからは『銘柄はお任せで』というオーダーをいただくことが多いです」とTakさんは話す。
そうしたコミュニケーションを繰り返しているうちに、どのお店にどんな銘柄を勧めればいいかもわかってくる。まるでソムリエがワインリストを見ながら常連のお客さんの顔を思い浮かべるように、「このコーヒーはあのお店が好きそうだな」と考えながら仕入れることもあるという。
焙煎の段階では、気温や湿度、豆の温度、含水量、焙煎機に入っていく熱風の量と排気の状態などあらゆる要素が仕上がりに影響する。そうした要素をすべて数値で管理することで事故を防ぎ、アウトプットの品質を一定に保っている。これをTakさんは「完璧な再現性」と表現する。
「僕は生産者からバトンをもらっていて、次はお店のバリスタさんにバトンを渡さなければいけない。そこを繋ぐプロの加工業者として、品質の再現性が絶対に必要です。うちの焙煎所に一時的に立ち寄ってくれた豆を、ちゃんと卒業させてあげる責任があるんです」
ロースターの仕事はコーヒー豆を仕入れるところから始まる。生産者から豆が輸送される際は麻袋に入っていることが多いが、外気の影響を受けると乾燥したり、フレーバーが劣化してしまう。そのため、焙煎所に届いたらすぐに異物除去機を通し、1ポンドごとに真空パックして気温と湿度を管理した暗所に保管する。シエロでは浅煎りのコーヒーを中心に常時40銘柄ほど、少ないものは5kgから取り扱っており、少量多品種が特徴だ。
「豆の特性をロットごとに楽しんでもらおうと思うと、必然的に銘柄が増えていくんですよね。そのせいか、お客さんからは『銘柄はお任せで』というオーダーをいただくことが多いです」とTakさんは話す。
そうしたコミュニケーションを繰り返しているうちに、どのお店にどんな銘柄を勧めればいいかもわかってくる。まるでソムリエがワインリストを見ながら常連のお客さんの顔を思い浮かべるように、「このコーヒーはあのお店が好きそうだな」と考えながら仕入れることもあるという。
焙煎の段階では、気温や湿度、豆の温度、含水量、焙煎機に入っていく熱風の量と排気の状態などあらゆる要素が仕上がりに影響する。そうした要素をすべて数値で管理することで事故を防ぎ、アウトプットの品質を一定に保っている。これをTakさんは「完璧な再現性」と表現する。
「僕は生産者からバトンをもらっていて、次はお店のバリスタさんにバトンを渡さなければいけない。そこを繋ぐプロの加工業者として、品質の再現性が絶対に必要です。うちの焙煎所に一時的に立ち寄ってくれた豆を、ちゃんと卒業させてあげる責任があるんです」
自分の理想は自分で作る
Takさんにとってコーヒーは、「気がついたときにはそばにあったもの」だという。20歳を過ぎて一人暮らしを始めたころから、お金がない中で月々の予算を決め、チェーン店で売っている安価な豆を購入していた。
「最初は普通のコーヒーメーカーで淹れていましたが、味の違いがわかってくるにつれてこだわりも強まりました。グラインダーやエスプレッソマシンを買い揃えるとどんどんハマっていきましたね。ハンドドリップの手法は近場のコーヒー店に通って教えてもらいました」
その後Takさんは、ある有名店でスペシャルティコーヒーと出会う。スペシャルティコーヒーとは、風味や生産体制などの項目について一定基準を満たした高品質なコーヒーのことだ。
「初めて飲んだときのおいしさが衝撃的だったんです。これまで持っていたコーヒーの概念を覆された。その出会いを機にコーヒーへの理解をもっと深めたいと思うようになり、カッピングという評価方法を勉強しました。その結果、テイスティングの能力は高まったのですが、同時に自分の理想も生まれてしまって。どの有名店に行っても、『ここがもっとこうだったらいいのにな』というエゴが出てくるんです。コーヒーを淹れる技術を磨いても、豆が理想と離れていたらどうにもならないということも体感でわかってきました。それなら理想のお店を探すのではなく自分で作ってしまおうと思い、焙煎の世界に入りました」
Takさんの理想を一言で言うと「きれいなコーヒー」だ。コーヒーには酸やフレーバー、甘さといったさまざまな評価項目がある。それらひとつひとつの要素が立体的かつクリアに見えるような、ノイズのないおいしさを目指しているという。
「最初は普通のコーヒーメーカーで淹れていましたが、味の違いがわかってくるにつれてこだわりも強まりました。グラインダーやエスプレッソマシンを買い揃えるとどんどんハマっていきましたね。ハンドドリップの手法は近場のコーヒー店に通って教えてもらいました」
その後Takさんは、ある有名店でスペシャルティコーヒーと出会う。スペシャルティコーヒーとは、風味や生産体制などの項目について一定基準を満たした高品質なコーヒーのことだ。
「初めて飲んだときのおいしさが衝撃的だったんです。これまで持っていたコーヒーの概念を覆された。その出会いを機にコーヒーへの理解をもっと深めたいと思うようになり、カッピングという評価方法を勉強しました。その結果、テイスティングの能力は高まったのですが、同時に自分の理想も生まれてしまって。どの有名店に行っても、『ここがもっとこうだったらいいのにな』というエゴが出てくるんです。コーヒーを淹れる技術を磨いても、豆が理想と離れていたらどうにもならないということも体感でわかってきました。それなら理想のお店を探すのではなく自分で作ってしまおうと思い、焙煎の世界に入りました」
Takさんの理想を一言で言うと「きれいなコーヒー」だ。コーヒーには酸やフレーバー、甘さといったさまざまな評価項目がある。それらひとつひとつの要素が立体的かつクリアに見えるような、ノイズのないおいしさを目指しているという。
ビジョンを形にするためのコーヒー
Takさんが今回手掛けたのは、The Holiday Loungeで提供している「The Holiday Blend(ホリデイブレンド)」。フードプロデューサーの内田鉄兵さんからのオファーで実現した。
「The Holidayについてのお話を聴いていると、鉄兵さんの頭の中にはこのプロジェクトに対するビジョンが明確にあるのだということがすぐにわかったんです。価値観を共有できるパートナーとともに、その人のフレームに沿った仕事をするというのは最高のものづくり体験になるだろうと思い、二つ返事で了承しました」
オファーをもらったその日のうちに試作品を焙煎し、2日後には鉄兵さんに会いに行った。鉄兵さんが最初に求めていたのは価格を抑えた深煎りの豆だったが、サンプルローストした中で鉄兵さんの理想に最も近かったのは、Takさんが本当に勧めたかった第二案の「Hummingbird(ハミングバード)」というスペシャルティコーヒーだった。このハミングバードを、さらに鉄兵さんの理想に沿うようチューニングしてできたのがホリデイブレンドである。
ホリデイブレンドはコロンビア、ブラジル、ブルンジ産のレッドブルボン、アマレロブルボンを使用した中深煎りのブレンド。柔らかい甘さとフレーバーに味の重心があり、苦味はかなり抑えられている。
「苦味を形成するものの一部は冷めてくると不快な刺激になる。それを抑えることで素材の良さも引き立って、どんな温度でも楽しめるコーヒーになりました。特にアイスコーヒーにするとよく分かるのですが、アプリコットなどのストーンフルーツのフレーバーが優しい甘みの中で現れて、爽やかに消えていきます。個人的には海上がりに飲みたい、Chillingなコーヒーです」とTakさん。
「The Holidayについてのお話を聴いていると、鉄兵さんの頭の中にはこのプロジェクトに対するビジョンが明確にあるのだということがすぐにわかったんです。価値観を共有できるパートナーとともに、その人のフレームに沿った仕事をするというのは最高のものづくり体験になるだろうと思い、二つ返事で了承しました」
オファーをもらったその日のうちに試作品を焙煎し、2日後には鉄兵さんに会いに行った。鉄兵さんが最初に求めていたのは価格を抑えた深煎りの豆だったが、サンプルローストした中で鉄兵さんの理想に最も近かったのは、Takさんが本当に勧めたかった第二案の「Hummingbird(ハミングバード)」というスペシャルティコーヒーだった。このハミングバードを、さらに鉄兵さんの理想に沿うようチューニングしてできたのがホリデイブレンドである。
ホリデイブレンドはコロンビア、ブラジル、ブルンジ産のレッドブルボン、アマレロブルボンを使用した中深煎りのブレンド。柔らかい甘さとフレーバーに味の重心があり、苦味はかなり抑えられている。
「苦味を形成するものの一部は冷めてくると不快な刺激になる。それを抑えることで素材の良さも引き立って、どんな温度でも楽しめるコーヒーになりました。特にアイスコーヒーにするとよく分かるのですが、アプリコットなどのストーンフルーツのフレーバーが優しい甘みの中で現れて、爽やかに消えていきます。個人的には海上がりに飲みたい、Chillingなコーヒーです」とTakさん。
自分の表現を追求し続けること
Takさんの夢は、各地の半島に自分の焙煎所を作り、コワーキングオフィスとして開放すること。それぞれの焙煎所には自ら教育したメンバーを置き、Takさん自身はサーフボードとサンプルロースターを車に積んで、旅と仕事を混ぜ合わせながら遊動するような生活を送る。コーヒーを「ライフワーク」と称するTakさんならではの発想だ。
「日本で『アート』というと偶然性によるアウトプットのことだと捉える人も多いですが、英語圏で『アート』というと鍛えて磨き抜かれた技術のことを表します。自分にとってコーヒーの焙煎は後者の意味でのアート。鍛えて磨くという部分は、きっと死ぬまで続くのだろうなと思っています。大変かもしれませんが、自分の表現を追求し続けられるという意味では、こんなに楽しいアートはないですね」
「日本で『アート』というと偶然性によるアウトプットのことだと捉える人も多いですが、英語圏で『アート』というと鍛えて磨き抜かれた技術のことを表します。自分にとってコーヒーの焙煎は後者の意味でのアート。鍛えて磨くという部分は、きっと死ぬまで続くのだろうなと思っています。大変かもしれませんが、自分の表現を追求し続けられるという意味では、こんなに楽しいアートはないですね」