西海岸の太陽とフィーリングを表現

The Holiday Loungeの店内、一番奥のガラス戸の向こう。日が差し込むテラス席の白い壁には、ロゴの形に切り抜かれたカッティングシートが貼られている。その壁にピンクやブルーなどの色鮮やかなペンキを塗っているのがウォールペインターのすまあみさんだ。身にまとっているデニムのオーバーオールは、ところどころに付いた塗料すらもファッションの一部になっている。

「今回はマリブのリゾートホテルに滞在しているかのような、ハッピーな印象の絵を描いてほしいというご相談をいただきました。私も西海岸には遊びに行ったことがあるので、そのときに受けたフィーリングやお日さまの感じを、ピンクや緑、金色で表現できるといいなと思っています」

すまあみさんがウォールペイントを描くときは、まずラフスケッチを作成し、依頼者とイメージのすり合わせを行いながら細部を決めていく。現場ではプロジェクターを使って線画を壁面に投影し、鉛筆で下書きをしてから着色するという流れだ。今回は2021年5月26日~28日の3日間、The Holiday Loungeにてライブペイントという形で作品制作を行った。
コートヤードHIROO内「ガロウ」で開催したウォールペイント展覧・発注会の作品(2016年夏)

ニコニコしながら働ける仕事

子どものころから絵を描くのが好きだったと話すすまあみさん。16歳のときに渡米し、美術大学でファッションを学んだのちニューヨークでファッションライターの職に就いたが、しばらくして仕事に違和感を感じ始める。

「ファッション業界って、ずっとかっこつけていなければいけない世界なんです。『これは歳をとったときにやっていたい仕事ではないかもしれない。もっとニコニコしながら働きたいな』と思うようになりました。でも、自分が次にやりたいことってなんだろう? と悩んでいたんです」
ちょうどそのころ、愛読していたフランスの子ども向け雑誌を開いたとき、ある子ども部屋の写真を目にする。壁一面にキャラクターの絵がたくさん散らばっているその部屋を見てぴんとひらめいた。

「アメリカには子ども部屋を作り込むカルチャーがあって、田舎には子ども部屋のペイントをする仕事もあるんです。友達の家に行くと妹や弟の部屋の壁面に絵が書いてあって、驚いた記憶がありました。そうした思い出や、子どものころに『絵を書く仕事がしたい』と思っていたこと、子どもがすごく好きだということ、インテリアに興味があることなど、いろいろな要素がひとつにつながったんです。『子ども部屋のウォールペインターなら、私にもできるかもしれない』と思い転身しました」

当時は世界中で日本のポップアートが流行っていた時期。ジャパニーズポップカルチャーを感じさせるような、それでいて都会のマンションにも合うような絵を提案しながら、ウォールペインターとしての経験を積んでいった。

“子どものために”から“子どもと一緒に”

北米で17年間を過ごしたあと、2010年に帰国。東京に拠点を移して引き続きウォールペインターとして活動しつつ、個人宅の子ども部屋以外にも保育施設や公共施設、ファッションストアや百貨店等でも作品提供を行っている。

2015年には子供服ブランドのファミリアが運営するプリスクールから依頼を受け、アート講師に就任。子どもの自由な感性に寄り添ったアート教育に従事している。

「それまでアートを教えることはあまり考えていなかったのですが、教育メソッドを作るところから関われるというお話だったので、素敵だなと思い参加させていただくことにしました。実際に子どもに教えたり、子どもたちの作品と一緒に展覧会をやらせてもらったりもしています」
プリスクールでは幅広い道具や素材を使いこなせるようになってもらいたいという思いから、お絵描きや造形など毎回異なるプログラムを行っている。また、東京・三軒茶屋にある複合習いごとスペース「ASOMANABO」でもアート教室を担当。そこでは毎回一人のアーティストについて子どもたちと一緒に研究し、その人からインスピレーションを膨らませて作品を制作する。何を作るかは子どもたち自身で考えるのだ。英語を日常的に感じてほしいという思いから、英語も交えて指導している。

「もともと“子どものために”活動していたのですが、日本に帰ってきてからは“子どもと一緒に”行うプロジェクトが増えてきました。ワークショップを行ったり、小学校の天井画を子どもたちと一緒に描いたりと、さまざまなご依頼をいただいています。もともと子どもが好きで始めた仕事なので、楽しいですし、得意なんですよね。アートを教える機会は今後も増やしていきたいと思っています。

子どもたちにはそれぞれに得意不得意があり、居心地の悪さや生きづらさのようなものを抱えている子もいる。でも、制作を通じて『自分にもできるんだ』と自分に自信が持てるようになる子もいるんです。そういった場面に出会えると、うれしくてたまらなくなりますね。」

場所が持つ夢を背景に描く

カラフルで明るい雰囲気の作品を得意とするすまあみさんは、どんなところから作品のイメージを膨らませているのか。

「ハッピーになれる背景を描きたいと思っています。私はあくまでも背景画家なんですよね。自分を表現した作品を作るのではなく、特定の場所に提供するための絵を描いている。だからこそ、ラフスケッチを描く前にはまず、その場所に対するクライアントさんの夢を伺うようにしています。どんな環境にしたいかというコンセプトやオープンに込めた思いを表現したいですし、子どもに関わる場所であれば、子どもを見守る愛情も表現できたらいいなと思っています」
その場所のため、その人のために描かれた唯一無二の作品は、そこにある“夢”を可視化する。そしてまた、その場所から新たな夢が生まれていくのだろう。